はじめに
京都精華大学では開学当初から、人間を尊重し、人間を大切にすることを教育の基本理念とし、「人間尊重」「自由自治」をうたってきました。その理念を現代の社会でも継承すべく、2016年にダイバーシティ推進宣言を発表し、基本となる考え方を改めて表明。翌年にはダイバーシティ推進センターを設立しました。そして2018年4月、ダイバーシティ推進の明確なコンセプトや具体的な推進内容を盛り込んだ、新たな宣言文と活動方針とを発表しました。
ダイバーシティ推進センターでは、多様性に関する知識や理解を深めるための講演イベントを年に複数回開催しています。2018年12月8日(土)にはダイバーシティ推進センター主催の公開講演会を開催。著書『紋切型社会』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞されたライターの武田砂鉄さんをお招きし、「その人がその人として居られる社会と表現」をテーマにご講演いただきました。
サコ学長挨拶
武田さんの講演の前に、ウスビ?サコ学長の挨拶がありました。挨拶では冒頭から、「日本に来て、どこでも外国人として扱われて腹が立つときもあった」と、思わずどきりとするようなお話から始まりました。ですがサコ学長は、「出身や肌の色について質問されるということは、相手が興味を持ってくれているということだと思考を切り替えた」と続けます。「子ども達からの率直な質問に、肌の色が黒いのはテニス焼けだと回答すると、子ども達が不思議そうに考え始める」というエピソードには会場から笑い声があがりました。日本社会には踏み込んだ質問をすることをタブーとする風潮がありますが、それを乗り越えて対話することで、ようやくお互いの違いを理解することができると考えを示しました。そして、京都精華大学のダイバーシティ推進はマイノリティのためのものではなく、マジョリティ側の構成員に考える機会を与えるものでないといけないと強くメッセージを伝えました。

武田砂鉄さんのご講演
武田さんのお話は、現代社会に感じる違和感を的確にすくい上げ、淡々と、それでいて鋭く切り込んでいく内容でした。はじめに出た話題は、近年増加している謝罪会見について。先日、シリアで武装拘束されていて、無事解放のち帰国したジャーナリストの会見が行われたばかりですが、テレビでは「謝罪の意が感じられなかった」といったコメントで溢れていました。武田さんは、近年の謝罪会見の増加について、「見ている側が圧倒的な正義感に浸るためのエンターテイメントになっているのではないか」と切り込みます。自己責任論が蔓延し、だれかに責任をとらせたがる社会に慣れてしまっている、人の価値がいつも測られている社会になっているというお話に、深く頷かされました。
武田さんは著書『紋切型社会』でも表されているとおり、「言葉」と真摯に向き合われる方です。SNSでだれでも自分の言葉を発信できる社会になった一方で、少しでも踏み込んだ発言をすると途端に知らない人から攻撃を受けることがあります。かといって攻撃されないように意識すると、使える言葉が収縮していき、よく聞くようなフレーズを繰り返す思考停止状態に陥ってしまうと武田さんは指摘します。紋切型社会とは、そのように紋切型の言葉を繰り返し聞き、使うことによって、本来深く考えるべきことでさえ型にはめて消費してしまう社会のことです。武田さんいわく、言葉は見えている世界の解